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東京地方裁判所 平成3年(特わ)1114号 判決

本店所在地

東京都大田区西蒲田七丁目五〇番二-四〇九号

(実質上の所在地 東京都中央区銀座一丁目一三番九号)

株式会社

大三商事

(右代表者代表取締役 大西康功)

本籍

北海道帯広市大通南一〇丁目一九番地

住居

神奈川県藤沢市高倉五八〇番地の五

元会社役員

大西昭市

昭和一七年四月一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴、弁護人木下貴司各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社大三商事を罰金一億円に、被告人大西昭市を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人大西昭市に対し、この裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社大三商事(以下、被告会社という)は、東京都大田区西蒲田七丁目五〇番二-四〇九号(実質上の所在地は同都中央区銀座一丁目一三番九号)に本店を置き、不動産の売買、仲介等を目的とする資本金五〇〇万円(昭和六二年七月三〇日以前は二〇〇万円)の株式会社であり、被告人大西昭市は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人大西昭市は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産の売上の一部を除外し、架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億八、三一七万九〇四円、課税土地譲渡利益金額が四億九、九七三万円(別紙修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、同六三年五月三一日、東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号所轄蒲田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、五五六万二、六七八円、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が二四六万二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億三、六六〇万一、五〇〇円と右申告税額との差額三億三、四一四万一、三〇〇円(別紙脱税額計算書のとおり)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人大西昭市の当公判廷における供述

一  被告人大西昭市の検察官に対する供述調書(三通)

一  児玉徹、竹澤廣儀、大窪博司(二通)、渡邉晴美、井口裕史の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の土地建物売上収入調査書(検甲一)

一  大蔵事務官作成の土地建物仲介手数料収入調査書(検甲二)

一  大蔵事務官作成の当期仕入高調査書(検甲三)

一  大蔵事務官作成の交際接待費調査書(検甲四)

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書(検甲五)

一  大蔵事務官作成の保険料調査書(検甲六)

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書(検甲七)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈支払手数料の金額について〉(検甲八)

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書(検甲九)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈受取利息について〉(検甲二六)

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書(検甲一〇)

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書(検甲一一)

一  大蔵事務官作成の交際費等の損金不算入額調査書(検甲一二)

一  大蔵事務官作成の土地建物認容調査書(検甲一三)

一  大蔵事務官作成の前払手数料認容調査書(検甲一四)

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書(検甲一五)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈事業税認定損について〉(検甲二七)

一  大蔵事務官作成の土地等の譲渡利益金額調査書(検甲一六)

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(検甲二四)

一  登記官作成の登記簿謄本(三通。検甲二八ないし三〇)

一  検察官作成の電話聴取書(検甲三一)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成三年押第七九四号の1)

(法令の適用)

被告人大西昭市の判示所為は、法人税法一五九条一項に、被告人大西昭市の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから被告会社につき同法一六四条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人大西昭市につき所定刑中懲役刑を選択し、被告会社につき情状により同法一五九条二項を適用し、被告人大西昭市に対し、その所定刑期の、被告会社に対し、その所定の罰金刑の各範囲内で被告人大西昭市を懲役二年に、被告会社を罰金一億円にそれぞれ処し、被告人大西昭市に対し、刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人らに負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件犯行は、一事業年度において、約三億三、〇〇〇万円余を脱税したものであるが、右脱税額は近時の高額化した事案のなかでも多額の範疇に属する。そして、ほ脱率は九九・二パーセントの高率に及んでいる。ほ脱の手口は、京橋の土地の売却に際してダミー会社を介在させ、あるいは架空の支払手数料などを計上したものであるが、ダミー会社による虚偽の申告に基づく納税が困難とみるや、担保とすべき不動産を提供するなどして税務署の目をくらまし犯行を隠蔽しようとしているものであって態様も悪質というべきである。なお、京橋物件に対する売上除外については、除外する金額を確定しないまま売上代金を処理したため、資金の流れに不自然さを残し、更には右の売上除外額を多額にし過ぎたため、後に被告会社の銀行借入返済金分の出所の説明に窮し、急遽、ダミー会社からの架空借入を計上するなど右の除外額の決定には、いささか無計画な点は認められるものの、被告人は、売買決定当初から脱税の犯意を有していたもので、かつ、被告会社は、被告人のワンマン経営で、経理担当者の専断によって右の売上除外額が決定されたものとは認められないのであるから、被告人のした売上除外額の決定の時期及び方法について、格別有利に斟酌しうる事由とはならないのである。以上によれば、被告人大西昭市に対しては施設内処遇を相当と思料されるところである。

他方、被告人は査察の段階から事実を認め、当公判廷においても反省の情を披瀝し、二度と本件同種事犯を起こさない旨誓約し、右誓約に信の措けること、起訴以前に修正申告をしてほ脱にかかる本税、延滞税、加算税を納付し、地方税については担保価値の限度まで担保設定されている保有不動産を処分して納付すべく真摯な努力をしていること、主たるほ脱の方法は京橋物件一筆の四億九、二五〇万円の売上除外であるが、右は周到な準備もないまま行った杜撰・稚拙な側面もあること、前科前歴がないこと、被告会社にあっては翌期に七、九〇〇万円余の欠損を出したほか、その後のいわゆるバブル経済崩壊により今日では給与の支払いにも困難を来しており、被告人にあっては被告会社に対する賃料も支払えない状況に陥ったなか捻出しうる限度までの贖罪寄付をしていることなど酌むべき事情も存する。

以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、特に被告人に対し、その刑の執行を猶予した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告人大西昭市に対し懲役二年、被告会社に対し罰金一億円)

(裁判官 伊藤正髙)

別紙

修正損益計算書

〈省略〉

別紙

脱税額計算書

〈省略〉

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